インディゴ様の授業が一段落ついたところで、タイミングよくウィスタリアさんがワゴンとともに現れました。
「お茶の時間でございます」
「では、今日の授業はこれまでにしましょうか」
「ありがとうございました」
「どういたしまして」
 インディゴ様は机の上の地図を片付け、自室に戻るつもりでいたようでしたが。
「インディゴも、ライラ様のレッスンにお付き合いなさい」
「え? えぇ……」
 ウィスタリアさんに言われ、インディゴ様が困惑しています。なかなかレアな顔ですよ。
「置いたままにしてある書類が待ってるんですが」
「あら、どうせ部屋でお茶する時間はあるのでしょう? 大丈夫、あなたならすぐに処理できます」
「いや……まあ……それはそうですけど……」
 いつも冷静沈着なインディゴ様ですが、さすがにお母様には勝てないようです。苦笑しつつも席に戻りました。そっか、これからインディゴ様にお付き合いいただいてお茶のマナーレッスンですか。ふ〜ん……ん?

 というか、インディゴ様と一緒のお茶って、めちゃくちゃ緊張してきたんですけど?

 お話ししたことはあってもそれは竜王様と一緒の時だったし、さらにさらに、サシで会話なんてしたことなんて記憶にございません! なのにいきなりお茶を一緒にって、ウィスタリアさんは鬼ですか。しかもマナーだって、さっきさらっと昼食の時に習っただけで、いきなり実践なんてハードル高すぎでしょ。現実を理解すると一気にパニックが押し寄せてきました。
 インディゴ様が片付けた机の上に清潔なテーブルクロスを敷き、ティーセットを配置、お菓子の乗ったお皿が置かれて、どんどんティータイムの準備が整っていきますが、私の気持ちは整いません! ああ、もう……粗相をしたらどうしよう。胃が痛くなってきた。
「そんなに緊張されなくても大丈夫でございますよ」
「はっ、はひ!?」
 にわかにやってきた実践の場に緊張でガクブルしている私に気が付いたウィスタリアさんが微笑していました。びっくりしておかしな返事しちゃったけど。
「練習ばかりでは上達しませんからね、実践も大事です。ほら、インディゴ相手ならば、いくら失敗しても大丈夫ですよ」
「そうそう。別に失敗したからって、ラファに告げ口したりしませんよ」
 爽やかに微笑んでるけどエグいことを言いましたね! 失敗したら竜王様に笑いのネタとして提供されてしまう……あわわ! ポンコツなのはすでにバレてるけど、これ以上上塗りはしたくないっ! さらに乗っかかってきたプレッシャーに震えが止まらない。
「インディゴ!」
「ははは! まあそれは冗談で」
「はぁぁぁぁ〜」
 盛大なため息が漏れましたよ。やめてくださいそういう心臓に悪い冗談は! 当のインディゴ様、ウィスタリアさんに怒られても涼しい顔をしてますけどね。まあしかし、始まってしまったものはしょうがない。ここは開き直ってティータイムを楽しむとしましょうか。