何気に図書室には初めてですね。そもそも竜王城の中をほとんど知らないかもしれない。勉強の一環として、城内の案内を頼んでみようかな——なんて考えながらフォーンさんの後ろに着いて行ってたら、いつの間にか大きな扉の前に立っていました。竜王様の執務室のように重厚な扉です。重たい音を響かせて扉を開き一歩足を踏み入れると、その桁違いのスケールに驚きました。
「うわぁ、すごい……!」
 中はびっしりと本・本・本! 吹き抜け二階、いや、三階分はあるだろう、天井の高い部屋。上の方の本も取りやすいように、段ごとに通路が巡らされ、階段だけでなく脚立も置かれてあります。部屋全体はむしろ暗め、最低限の明るさを保っている感じです。きっと大事な本も保管されているだろうから、明かり取りの窓は最小限なのでしょう。一階部分に大きな机や椅子が置かれていました。こういう図書室、映画で見たことあるぞ〜。ほら、あの有名な、美女と獣に変えられた王子のお話とか。とにかくあまりの荘厳さに言葉を失っていたけど、フォーンさんの咳払いの音で我に返りました。
「口が開いておいでですよ」
「あっ」
「こちらに、どうぞ」
「はい」
 フォーンさんが大きな机の前の椅子を引いて待っていたので、遠慮なくそこに座らせていただきました。目の前に分厚い本が数冊積まれたままになっています。片付け忘れかな? フォーンさんてばうっかりさんですね! これから勉強するのに邪魔じゃないですか。
「フォーンさん、ここにの本、どこに片付けたら——」
 どっこいしょーと持ち上げたら。
「ああ! どこへ持っていこうと……ゴホン、そちらがテキストでございます」
「うそやん! ……じゃなくて! これが、テキスト?」
「さようでございます」
 大真面目に頷くフォーンさん。
 うそやん。って、また二回目ツッコミでちゃったわ。これが、テキスト? 改めて見ても辞書、もしくは図鑑という、エグい分厚さ。私の知ってるテキストとは全然違うんですけど? それも一冊じゃなくて、何冊も。これが正真正銘の山積みかと、遠い目になりました。しかしそんな私に、フォーンさんはお構いなし。
「ではさっそく、この国の歴史から勉強いたしましょう。お妃様になるのですから、最低でもこの国の歴史に精通しておかねばなりません」
「はあ」
「ではそのテキストの一巻、最初の章から——」
「ま、待ってください〜」
 さっさと講義を始めちゃうから、慌てて本を取ってページを捲りました。
 竜王国の建国前史から始まって、代々の王様の名前、在位年数などなど。もちろん『〇〇年にナニナニの戦い』だの『〇〇年にこんな事件』ももちろんあります。水が流れるように歴史も続く……ですが! 流れが早すぎて何も頭に止まってくれない。
「はいっ、先生! ……じゃなくて、フォーンさん」
「なんでしょうか」
「紙と筆記具をください! 覚えられません!!」
「書くまでもなく暗記してほしいところですが……よろしいでしょう」
「ありがとうございます!」
 書いたところで完全に覚えるなんてできるかどうかわかりませんけどね。あ、これってテストあるんでしょうか? 通しでされると困るので、できれば中間・期末くらいに分けてください。