「今日からここがそなたの部屋だが、気に入ったか?」
「竜王様!!」

 ちょうどよかった、そっちからきてくれましたか。背後でメイドさんたちが深く頭を下げている気配がしました。ズカズカと部屋に入ってきてソファにゆったりと座る竜王様。う〜ん、こういう人が座る方がしっくりくるなぁ……って、感心している場合じゃない。私は竜王様に抗議しに行くところだったんですよ。
「好みがわからなかったからな、ウィスタリアたちの助言で用意させた。なかなか落ち着いていていいんじゃないか」
「気に入るもなにも、あまりの急展開に流されまくって……じゃない、心がついてきてませんよ。というか、アレ、本気だったんですか」
「ん? アレ、とは?」
 クイっと上がる、竜王様の眉。
「えっと、その、あの……」
 自分で『妃』というワードを言いづらくてゴニョゴニョしていると、竜王様、ニヤリと笑いました。わぁ。これ、わざとしらばっくれてますよね。なんか腹立つ〜。
「妃にするっていう話です!」
「もちろん、本気だが?」
 腹立ち紛れに叫んだら、ニヤリ笑いをやめたクールな黒ヒスイの瞳が、こちらを真っ直ぐ見つめて来ました。これは本気……っぽい?
「う……っ」
「ライラは嫌なのか?」
 いきなり真面目な顔で白黒を迫られても困ります。私にグレーゾーンをプリーズ!
「嫌……ではありません。またこうして竜王様の元、お城に住まわせていただけるのは本当に嬉しいです。けど、私のような庶民、いいえ使用人がいきなり『お妃様になれ』と言われても困るんです」
 これは嘘偽りない私の気持ち。竜王様がわざわざ私を探して迎えにきてくれたのは本当に嬉しかったし、近くでまたお仕えできることを喜んでるけど、それが恋愛感情かどうかと言われたら、違う気がするんです。畏れ多すぎて、恋愛対象と考えられないというか。いや、私の中では『結婚=恋愛』という図式が固定概念としてあるので、『妃=嫁=結婚=恋愛』と、単純に繋がってしまっただけですよ。私が竜王様の恋愛対象なんておこがましい考えありませんよ! とにかく、竜王様がどういうつもりで『妃になれ』と言ったのかわからないけど、私をお妃様にするメリットなんて『好みのお味噌汁が作れる』というだけで、他は皆無な以上にリスキーかと思われます。
 ぐるぐると頭の中で考えが回っているけど、それを言葉にできなくて黙っていると、竜王様が口を開きました。
「余がいきなり言い出したから、困っているんだな?」
「それだけではないですが」
「いきなりではなければいいのだな?」
「それだけじゃないって言いましたよね?」
 竜王様、私の言葉聞いてました?
「気持ちはこれから作ればいい」
「作る!?」
 気持ちって作るものなの!? 俳優さんかな?
「勉強していけば、妃の自覚も出てくるだろう」
「勉強?」
 この歳になってまた勉強ですか! 若い頃と違って脳細胞死に死になんですけど。というか、竜王様のお妃になる気持ちを作る勉強って何。
「ライラの気持ちが追いつくまで、余は待っている」

 待つも何も、そもそもどうやって気持ちを作るのかどうか、作り方がわからないんですけど〜!