ことの重大さに今更慌てても時すでに遅し。
「これから何か御用がございましたら、こちらの二人にお申し付けください」
「よろしくお願いいたします」
「なんなりと、お申し付けください」
 そう言って挨拶しているのは、今まで〝使用人仲間〟だったはずのシエナとクラレット。厨房付きの私とウィスタリアさん傘下の二人はそうそう接点がなかったけど、賄いの時間に少しお話しするくらいには打ち解けていました。それがいきなり『お付きのメイド』になるなんて。最下層メイドの私が二人を使うなんて、そんな事できるわけないでしょ〜!
「他にもライラック様付きのメイドがおりますが、メインはこの二人でお仕えいたします。では、お部屋も少しご案内させていただきます」
「えっ、えっ……あの?」
 ボーゼンとしている間にも話がどんどん進んでいって、流されっぱなしの私。止めるタイミングを失っちゃってるから、着々と『使用人ではないライラ』になりつつあります。
「今いるこのお部屋が、普段お過ごしいただくお部屋になります」
「はあ」
「そして、こちらが寝室になります」
 部屋の奥、ウィスタリアさんが開けてくれたドアから中に入ると、まず目に入ったのが大きなベッド。天蓋付きのそれは、キングサイズよりも大きいかな。三人くらいでも余裕で寝れちゃいそうです。部屋全体は、淡いグレーを基調とした寝室らしい、落ち着いた空間になっています。
「次は……こちらが衣装部屋になっております」
 寝室を出て居間に戻りまた別の扉が開かれると、今度は色とりどりのドレスが並んでいるのが見えました。竜王城で普段の女性を見たことがないから忘れてたけど、ヴァヴェルの女王様って毎日ドレス着てたわよね。ということは、これが普段着的なもの? 
「日々の着替えなどで、とりあえず用意させていただきましたが、これからお好みに合わせて作っていきますのでご容赦くださいませ」
「よ、容赦も何も」
 やっぱり普段着かぁ。毎日着たとしても、いったい何日かかるのよってくらいの量。……ふむ、これだけあったら当分洗濯しなくても服に困らないわね。……じゃな〜〜〜い!! コラ待て私。ついさっき『脱・汚部屋』を誓ったところじゃない。早々とフラグ回収するんじゃないわよ。
 いやもう、何が何だか……。
 とにかく、竜王様には冷静になって考え直してもらわないといけないと思います。私がお妃様なんてないない!
「——ここはまあ置いといてですね。竜王様とお話ししてきてもいいでしょうか?」
「竜王様は執務中でございます。お忙しくされてますので、今はご無理かと」
「扉ぶち壊してでもなんでも、強行突破します!」
「お待ちください!」
 私の待遇改善(降下?)がかかってるんです! 扉くらいぶち壊してやラァ。
 私が勢いのまま部屋を出て行こうとしたら、扉が向こうから自動的に開きました。あら、自動ドア? なんてツッコミは、扉の向こうに見えた人のせいで引っ込んでしまいました。