ウィスタリアさんに案内されてきた、とんでもなく立派な部屋。いきなりここが私の部屋と言われても心が全然追いつかなくて、入り口のところでまごついていると。
「案内しますので、中にどうぞ」
 先に中に入っていたウィスタリアさんから丁寧に誘われていますが、足が進もうとしません。
「えと……でも……」
「罠も何もございませんよ」
「あ、はい」
 微笑みの奥に有無を言わさぬ何かが見えて怖い。つい返事をしてしまったので、私は恐る恐る、部屋に足を踏み入れました。
「うわぁ……ヨーロッパの宮殿みたい」
 思わず出た感想。なにしろ豪華だけど華美というのはちょっと違う、センスのいい部屋なんです。白を基調としていて、壁には細かく花の模様が浮き彫りにされています。浮き彫りは淡いグレーやベージュで彩られていて、ところどころに使われている金が、いいアクセントになっています。全体的に可愛い感じになっています。大人可愛い感じ、かな。どうぞと勧められた例の猫足ソファーにカバンと並んで座ってみたけど、全然落ち着かないし、混乱するばかりです。
 なんでどうしてこうなった。
 確か私はもう一度この竜王城で、厨房のメイドとして雇われたはず。なのに充てがわれた部屋はどう見ても高貴な人が暮らすような部屋。……やっぱり、色々おかしいでしょ。
「ウィスタリアさん、やっぱり私はマゼンタと同じ部屋がいいです!」
「それは困ります。未来のお妃様が、使用人と同じ部屋に住むというのは——」
 ピシャリとお断りされました。いや、待って。スルーできない台詞がありましたよね?
「はい? 今なんておっしゃいました?」
「使用人と同じ部屋に住むのは困る、と申しました」
「そこじゃなくて、その前、『未来の〜』ってとこです」
「ああ、『未来のお妃様』でございますか?」
「そう! そこ!! 私は竜王城(ここ)に、メイドとして雇われたはずです」
「まあ……。しかし、竜王様はそのおつもりはございませんよ?」
「えぇ……」
「ライラック様は、もはや使用人ではございません。これからは未来のお妃様としてお仕えさせていただきます」
「えぇ……」
 お城に戻ってきた時のあの『お帰りなさい、ライラ』って、仲間としての打ち解けた感じは嘘だったんですか? いや、ウィスタリアさんはいたって真面目です。竜王様のあの言葉が、まさか本気だったなんて……!!