なんだこのアンジャッシュ状態。
 私は『以前と同じ部屋』と思って話しているけど、ウィスタリアさんの考えている『お部屋』とは微妙に食い違ってる気がする。

 それにそもそも、向かう方向が違うのはどうしてかな?

 ウィスタリアさんはしっかりとした足取りで竜王城の奥の方に歩いて行くけど、それは使用人用の部屋がある方ではなくて、私も足を踏み入れたことのないエリアの方です。ひょっとしたら下っ端の下っ端の下っ端の下っ端(一つ増えました!)に、さらに格下げになっていて、また違う使用人部屋に移動になったのかしら。
「私のお部屋、そっちじゃないですよ?」
 自分の中で『格下げ説』に納得しつつ、一応ウィスタリアさんに確認してみました。
「変わったことをお知らせしていなかったようですね」
「あ、変わったんですね」
 なるほど納得。今度はどんな部屋かな。誰と同室かな。もしくは大部屋に雑居状態とか? どんなところでも、住まわせてもらえるだけありがたいですって。
 なんて考えながら付いていってるんだけど、さらに粗末になると思われる使用人部屋に続く廊下にしては、めちゃくちゃご立派なんですよねぇ。
 どこまで続いてんの? と言いたくなる長い廊下はピッカピカに磨き上げられた大理石で、白と黒の市松模様がシックでおしゃれ。使用人部屋の廊下も石造りだけど、こんな磨いてないし、むしろ市松模様でも大理石でもないし。壁に沿って等間隔に現れる部屋の扉も、やたら重厚で立派です。
 ほんとにこの先、使用人部屋なんてあるのかな? ——まさかまたあの塔の部屋とか?
 内心ダラダラ冷や汗かきながらも大人しく付いていくと、ウィスタリアさんが静かに足を止めました。
 廊下の突き当たり、一層大きく豪華な扉の前。
 予想の斜め上すぎてボーゼンです。
「……ここ……ですか?」

「ご案内が遅れて申し訳ございませんでした」

 ウィスタリアさん!? 誰とお話ししてるのかな? よそもの(裏切り者?)が帰ってきたからって、よそよそしすぎるでしょ。というか、むしろこのお客様扱いが怖いんですけど‼︎
 さっきは普通に『お帰りなさい』って微笑んでくれてたじゃないですか! あの時のあなたはどこ行った?
「ウウウウ……」
 言葉にならずモゴモゴしていると、ウィスタリアさんが扉を開けました。重たそうに見えるけど、静かに開く扉。そして扉の前に立ったウィスタリアさんが、部屋の中を示しています。
「あちらに、ございますね」
「えええ、と。あ、はい」
 ウィスタリアさんが指すところに、確かにありました。猫足も優雅なカウチソファーに、ちんまりと私のしょぼい手持ちカバン。場違い感ハンパなし。そこはゴージャスな女帝が、アンニュイに頬杖ついて寝そべってるのこそが似合う場所でしょ。この例えもおかしいけど。
「こここここっここっ、ここじゃないです私の部屋! でもカバンは私のです」
 慌てすぎてニワトリみたいになっちゃった。いやいや、冗談はやめてくださいよハッハツハ〜。真面目な顔してウィスタリアさんもボケるんですね!
 しかしウィスタリアさんは大真面目な顔のまま。

「合っております。今日からここでお過ごしください」

「はいいいい!?」

 ちょっと頭がついていかない。誰かこの状況を説明してぇ〜!!

 ウィスタリアさんの態度がおかしくなって、こんなとんでもなく豪華な部屋が〝私の部屋〟って言われて……一体どうなってるの!?