ウェルド氏に転送の魔法陣を描いてもらうよりも竜王様が飛ぶ方が早いということで、帰りも竜王様ジェットで帰ることにしました。プライベートジェット万歳。
 陽はとっくに暮れて、真っ黒の夜空。満月に近い月明かりに竜王様の漆黒の鱗が反射し、キラキラ輝いています。地上から見たら、私たちが流れ星に見えるかも。
「女王様の話、本当でしょうか?」
「五分五分と言ったところだろうが、まあインディゴのことだ、しっかりカタをつけてくると思うぞ」
「ですね」
「ああ」
 今頃、爽やかな笑顔でキッツイ条件を飲ませているだろうインディゴ様の姿が想像できて、笑いが込み上げてきました。向こうが武力でなんとかねじ伏せようとしても、バーガンディーさんがいるから返り討ちだろうし。なんとなればスプルース様の魔法でなんとかなりそう。——上手く行く気しかしないですね。
 時折、月明かりよりも明るい流れ星が、私たちを追い越していきます。
「とにかく、ライラが無事でよかった」
「それは竜王様のおかげです。助けてくれてありがとうございました」
「そもそも——」
「そもそも?」
「ライラの身分がハッキリとしないからこんなことが起きてしまった。すまない。これは余のせいでもある」
「なんで竜王様のせいですか。女王様のせいならまだしも」
 どこに竜王様の責任があるかと思っていたら。
「正式に、ライラが、余の妃であると周知していなかったから——」
 私が、正式な、竜王様のお妃様? まだなった覚えありませんけど?
「待って待って、ストップストップ! 〝妃〟じゃないですよ、まだ〝候補〟です」
 結婚してないってば! 気が早いな!
「ああ、そうだったな。少なくとも、正式な予定者であることは言うべきだった。まあ、もう待つ気はないが」
「えぇ……」
「今後、このようなことが起きないように、ハッキリさせておこうと思う」
「竜王様……」
「ライラを守るためなら、どんな手でも打っておきたいからな」
 私を守るために——。竜王様の優しい言葉が、じんわりと心に染み込んできました。思い返せば、竜王様はいつも私の気持ちを最優先に寄り添ってくれていました。ストレス爆発してイライラしていた時も、緊張でガチガチになりそうな時も。ちゃんと私の気持ちを考えて、『待って』いてくれました。しかも、これからも『守る』って……こんないい男、他にいる? いないよね! な〜んて。私にとっても竜王様は、他愛のない時間を一緒に楽しめる、特別な人なんですよね。『王様』とか『イケメン』ていうのは単なる付属物でしかない。見た目からは想像もつかない、優しい気持ちを秘めたラファエル様のことが好きだなぁって、今なら確かに言えます。
 そんな竜王様の優しさに、私はどうやってお返ししたらいいのかわからないけど。気後ればかりしてた私も、覚悟ができました。
「妃になってくれるか?」
「はい。ずっとお側にいさせてくださいね」
「もちろんだ。ずっと守り続けると約束しよう」
「じゃあ私は、毎日味噌汁を作りましょう」
「それはいいな」
「ねえ——ラファエル様」
「なんだ」
「月が綺麗ですね」
「ん? ああ、そうだな」
「ふふふ」
 ストレートに言うのはまだ照れくさいので、一捻りさせてください。竜王様には通じてないでしょうけどね!