膝から崩れ落ちそうになるのを、竜王様が支えてくれました。
「そなたの〝うっかり〟で、ライラが危険な目に遭ったのだが?」
 きつくウェルド氏を睨む竜王様の背後にメラメラ〜と立ち上る炎が見える……これは幻だよね? 
「そっ……それは……あの……っ」
 竜王様の迫力が凄すぎて、さっきまでの平静から一転してしどろもどろになるのはわかるけど、故意なのか、過失なのか、はっきりしてくれないですかね。
 竜王様と私がウェルド氏を睨んでいると、助け舟を出したのは女王様でした。
「私のうっかり家臣がご迷惑をおかけしちゃったみたいね。悪気はなかったのよ」
 うわぁ……。『悪気がなかった』って、一番タチの悪いやつじゃないですか。悪気がなかったからって、シャレにならないうっかりを流せるかっつの。イラっとしたのは私だけではなかったようです。
「そうか。では、余が〝うっかり〟火炎の制御ができなくなり、〝悪気なく〟この国を焼き払っても問題ないな」
 これ、竜王様、しずか〜にブチギレてますよね。竜王様の本気のお怒りがサイコパス気味な女王様にもようやく伝わったようで、いつも浮かべている余裕の微笑みが凍りました。
「ごっ、ごめんなさい! 本当に本当に悪気はなかったの。うっかりだったの」
「そうか」
 女王様が慌てて謝っても、竜王様は顔色ひとつ変えません。まさか本気でヴァヴェル王国を焼き払うつもりじゃ、ないですよね?
「申し訳ございませんでした!! 我が君——女王様は何も悪くございません。私だけが悪いのでございます」
 ウェルド氏がいつの間にか土下座しています。ナチュラルに受け入れてるけど、土下座って、この世界でもあるんですね。
「ライラ、どうしてくれよう? そなたの気の済むようにしてやる」
 竜王様が私の方を見て言うけど、え? 私がこの場を収めないといけない感じなんですか? う〜ん、そうですねぇ……。
「置き去りにされたのは腹が立つし一発殴らせろって感じですけど、竜王様がすぐに助けに来てくれたから事なきは得ましたので……。貴重な薬草を頂いたから、今回はもういいかなって思います」
「それでいいのか?」
「はい。もういいです。それより一刻も早く薬草を持って帰りたいです」
 もう二度とこの人たちと関わることもないでしょうからね! そんな人たちよりも、薬を待ってる人たちのところに行くことが先決です。
「わかった」
 竜王様も納得してくれたようです。