「もう、ライラックったら大袈裟ねぇ」
「いやいや、どんな毒よりヤバいです。というか逆に胃袋掴む以前の問題で、諦めて欲しい方にこれを食べさせたら一発で嫌われますよ」
 後回しにしていた問題の方が先に解決しそう……じゃなくて。味見しようとする女王様の手を止めていると。
「本当に、ライラック殿は大袈裟ですね。我が君、これはとても美味しゅうございますよ」
 めちゃくちゃしょっぱいクッキーを、平然と食べ出したウェルド氏。にこやかに、しかし、『バリボリ、ガリゴリ』と、とてもクッキーとは思えぬ音を立てて食べてる姿がシュールなんですけど。
「嘘でしょ」
 あまりに美味しそうに食べるもんだから、私が嘘つきみたいになってます。この人の味覚、どうなってんの? ヤバめな人だとは思ってたけど、マジもんでヤバい人ですよ。私が唖然としている間に女王様はクッキーを取り、味見してしまいました。
「あら、やっぱりライラックがおかしかったのね。やっぱり私も味見を——」
 ガリっという音がして、そこで動きを止めた女王様。私は止めましたよ。もう知らね。
「かっっっっっらいわっ!! なにこれ、マズっ!! 全然美味しくないじゃない!」
 自ら〝ぺっ〟の袋を取り吐き出し、差し出された水をがぶ飲みしています。
「ウェルドの嘘つき〜! こんなの、食べれたもんじゃないわ!」
「そうですか? 我が君がせっかく作られたもの、不味いわけがございません。いえ、むしろ十分美味しゅうございます」
 それでも平気で食べ続けているウェルド氏は、特殊な訓練を受けてるのかな? いやいや、これが愛の力か? 
 私は若干引き気味にウェルド氏を見守っていたんですが、女王様は違ったようです。
「ウェルド……」
 急に乙女の顔してませんか、女王様? 急に瞳を潤ませ、赤くなった頬を手で押さえちゃって。
 ウェルド氏、体張った甲斐ありましたよ。なんか、女王様のキュンポイントをゲットしてますよ。