待つこと十数分。女王様のお菓子、見た目は綺麗に焼けていました。
「まあ、素晴らしいわ」
 女王様もご満悦なほどに。しかし……。
「ライラック、食べてみて」
「はい」
 女王様に勧められた食べ物は、いつもならお断りするところだけど、これは目の前で調理されたものなので警戒なく口に入れました。焦げもなくいい焼き具合です。香りもいいし、これは上出来なんじゃないでしょうか。ひょっとしたら女王様、料理の才能あるのかも——なんて思った数分前の自分を殴りたい。
 一口かじると『ボキッ』という音を立てて割れました。そして。
「んっ!? ぐ……っ、げほげほ」
 一瞬なんの味かわかりませんでした。口の中に広がる、強烈なしょっぱさ。煎餅のような硬さと、すんごい塩味。私は岩塩の丸齧りでもしたのでしょうか!?
「エーリカ!?」
「どうした!」
 突然苦しみ出した私に驚いた元同僚たちが、水を持ってきたり〝ぺっ〟する用の袋を持ってきたりで厨房は騒然となりました。
「ライラック? どうしたの?」
「かっっっっっらいです!! 何を入れたんですか!!」
「え〜? 何って、言われた通りのものを入れただけだけど?」
 ワタワタする周囲をよそに、一人平然と小首を傾げる女王様が指しているのは、作業台の調味料入れ。
「甘みを、入れてくださいって、言いましたよね?」
「あら、入れたわ。甘みでしょ?」
「それ、辛味、です」
「あらやだ、間違えちゃった」
 うふふふふと笑う女王様が手にしているものを見て、ぶっ倒れそうになりました。それ、塩の壺ですやん。砂糖と塩を間違えるって、なんて典型的なパターンよ。ベタすぎる。そして下手な毒よりヤバいものできちゃってますよ。死ぬかと思った。