気の抜けた要求——いや、女王様にとっては切実な悩みか——ということは判明したものの、命の危険がゼロになったわけではありません。晩餐のお誘いはありましたが、『一緒でも別でも、どっちでもお好きにどうぞ』ということだったので、喜んで遠慮させていただきました。かといっても、お腹は減るもの。勝手知ったるお城の中、私は厨房へ向かいました。
「すみません、何か食べさせてくださーい」
 女王様のお食事が終わった後の片付けに勤しむ、かつての同僚たちに声をかけました。
「エーリカ!? え? 一体どういうこと?」
 そうそう、ヴァヴェル人だった頃の私は『エーリカ』という名前でした。すっかりライラが馴染んじゃってるなぁ……という感傷は置いといて。みんな、半年以上前にいきなり行方不明のような形で姿を消した私の登場に驚いています。そういや私の扱い、どうしたんだろ女王様。
「挨拶もなくいきなりいなくなったと思ったら、メイド長が『エーリカは辞めた』って言うもんだからさぁ。あんたドジしすぎでクビになったんでしょ」
 心配そうに話しかけてくる同僚と、頷いている周り。え? 私『解雇(クビ)』でお城からいなくなってたの?
「え。そんなことになってたの?」
「そうよ。クビになったのに、また戻ってきたの? てか、戻って来れたの?」
 おおい。ドジのしすぎでクビになったっていうデマがまことしやかに囁かれてた……しかも、誰も疑うことなく信じられてた……。膝から崩れ落ちそうだわ。
「いろいろ事情があって、女王様に呼ばれたの。ちなみにドジのしすぎでクビになってないからね」
「あら」
「それはいいから、何か食べ物ください。なんなら自分で調理します」
「いいわよ。適当に使って」
「ありがとう!」
 材料には毒も薬も含まれていませんから、自分で調理して食べるのが一番安全です。同僚が言うように、適当に野菜をもらってスープを作りました。詮索されると面倒なので、ここでは以前と同じような調理法で作らないといけません。出汁の味がないから、素朴すぎてそっけない味だ……。