女王様が一人お茶を楽しんでいるのを、ただ見ているだけの無為な時間が過ぎて行きます。私、ここまで何しに来たんだっけ? という、目的迷子になりそうになった頃、ようやく女王様の一人ティータイムが終わりました。
「今はライラックっていうのね」
「あ、はい」
 本当は『レイラ』って伝えたんだけど、竜王様が空耳しちゃって『ライラック』になったんですよね。そもそもヴァヴェルにいた頃は別の名前がありましたが、女王様がただの下っ端使用人の名前なんて覚えているはずがありません。
「ライラックに折り入ってお願いがあって呼んだの」
「お願い、ですか」
「そう。私のお願いを聞いてくれたら、例の薬草が生えている場所を教えるし、好きなだけ採っていってもいいわ」
「本当ですか!?」
「ええ、もちろんよ」
 にっこりと微笑む女王様は、年齢不詳の美魔女だなぁってつくづく思います。けどこの人、笑顔でエグい要求をするからなぁ。先に牽制しておかないと。
「——竜王様の気持ちを女王様に向けろとか、そんな無茶振りは聞けませんよ」
「あら、できたら嬉しいけど、まあ、そうじゃないのよ」
「え? では、どういう?」
「あのね——」
 女王様が語るには。自分はなんとも思っていない男から熱烈なアプローチを受けてるけど、実際嬉しくない。できたら諦めて欲しいので、なんとかならないか。ついでに、いい男の捕まえ方も教えろ、と言うことでした。……結構な無理難題じゃね?
 というか、こんな用事のために、わざわざ私を呼び出したって?
「竜王様のような素晴らしい男性を虜にしたライラックだからこそ、なんとかできそうと思ってね。うふふふふ」
 何を呑気にうふふふふじゃねーわ。全身の力が一気に抜けたような気になりました。こっちはどんだけ悩んで決意して、単身ヴァヴェルに乗り込んで来たと思ってんですか。
「私を呼んだのは、そういうことだったんですか?」
「そう。私ってば、こういうことに慣れてなくて、どう説明したらいいかわからなくてね」
 そう言ってまたふわふわ笑う女王様。
 だからって、あんな意味不明かつ疑心暗鬼になるような呼びつけ方はないでしょうが。竜王様や私、三将様たちで真剣に悩んだあの時間を返せ! あまりの脱力感に、ズブブブブ……と、ソファーに沈み込む感じがしました。
 ああもうっ!
 そんなことで薬草が手に入るなら、全力でお手伝いしますよ!!