準備ができたことを竜王様に知らせると、呼ばれたのはダンスのレッスンに使っていたあの部屋でした。
「魔法陣を展開するのに場所が必要なのでね」
 スプルース様が床に魔法陣を描いているのを、インディゴ様が説明してくれました。意味は教えてもらったけど、やっぱりパッと見は曼荼羅みたいだわ。
「あの、ちょっとだけ気掛かりがあるんですけど」
「なんだ?」
「私が留守の間、ティア・モーブが心配なんです。あ、お城はまっっっっっったく問題ないと思いますが」
「ティア・モーブ? なぜだ?」
「お給仕の人が病で倒れちゃって、モーブさん一人で切り盛りしているんです」
「そうか」
 竜王様が何か考えていると、インディゴ様がバーガンディーさんを指差しました。
「では、暇人のバーガンディーでも派遣しますか」
「は? なんで俺だよ」
「暇でしょ」
「暇じゃねーわ!」
「しょっちゅう厨房に顔が出せるくらいには暇でしょう」
「うっ……」
 インディゴ様に痛いところを疲れてぐうの音も出なくなったバーガンディーさんに追い打ちをかけたのは、スプルース様でした。
「バーガンディーだけじゃ余計に心配だから、例のあの子も一緒に派遣したら?」
「スプルース! てめえ! 急にこっちの話に入ってきて……魔法陣はできたのかよ」
「うん、できた。ライラ、この真ん中に立って」
「あ、はい」
 私は言われるがまま、トランクを持って魔法陣の中心に立ちました。スプルース様が何やら呪文のようなものを唱え始めると、不思議なことに魔法陣の文字がキラキラと自発光を始めたじゃありませんか。うわぁ、こういうの、前世アニメかなんかで見た〜! なんて呑気なことを思いながらどんどん光の強さを増す自分の周りを見ていると、急にぐいっと腕を掴まれ強い力で抱きしめられました。
「へぁっ!?」
「必ず、余の名を、呼べ」
「名を?」
「そうだ」
 ラファエル様と? と思った時、唇に温かいものが触れました。

 あ、キス。

 認識と同時にドンッと押され、気が付けば、私は光の渦の中に飲み込まれていました。