時間的にはそろそろ夕飯の支度に取り掛かり始める時間だから、厨房のみんなは忙しすぎて私に気付かないかも? でもまたここで働かせてもらうんだから、ちゃんとご挨拶しないと。なんなら即戦力で、賄い作っちゃう? いや、むしろ戦力外通告される可能性大。
 恐る恐る覗いた厨房は、予想通り、夕食の準備に取り掛かっていました。『事前の仕込み』という概念が定着したからか、以前のように『あれはどこ?』『材料を持ってこい』とかいう無駄な……いや、ドタバタな展開は無くなっています。やってよかった働き方改革。とはいえ、今ここにズカズカ入って行く勇気はないなあと、入り口でためらっていると。
「なにやってんの」
 いきなりポンッと肩を叩かれたので飛び上がってしまいました。
「ぴやぁ〜っ! マ、マゼンタ!」
「さっきからそこでこそこそ何やってんの、って聞いてるの」
「久しぶりの対面なのに、めっちゃフランクね! って、それはどうでもいいわ」
「いやまあ、ライラが竜王城に帰ってきたっていうのは、さっきフォーンさんから聞いてたし」
「あ、そうなんだ」
 すでに情報伝達済みでした。しかもフォーンさんてところに、またツンデレを感じてしまいます。
「こんなところで話してると邪魔になるわ、とにかく早く中に入りなさいな」
「あ、はーい」
 そうそう邪魔になっては本末転倒。私はマゼンタに促されるまま、あっさり厨房に入りました。
「みんな〜、ライラ帰ってきたよ〜」
 マゼンタさんが厨房内に声をかけると、みんながピタリと手を止めました。
「ライラ、お帰り」
「早い戻りだったね」
 口々に言いながら私のところに集まってきました。
「ライラのマカナイ美味しかったなぁって、よくみんなで思い出してたんだぞ」
「そうそう!」
 みんなにこやかに言ってくれて……ちょっと涙出そう。ここを出る時、あんなに盛大にご迷惑かけて出て行ったというのに。
「みなさん……! またこちらでお世話になります! よろしくお願いします!」
 感謝とか謝罪とか、いろんな気持ちを込めて、私は深々と頭を下げました。
「ほらほら、顔を上げな」 
 調理中で忙しいはずのトープさんも、奥から声をかけてくれました。