「1年くらい前からかな。」

「マジか。この1年間で俺たち3人で何度も飲みに行ったり遊びに行ったりしたよな。その時全く、付き合っている素振りみせなかったじゃん。」

「そんなことないよ。守が気付かなかっただけで、朱音や俺の同僚や友人たちは普通に気付いたよ。まぁ、守の場合は俺たちが小さい頃から一緒にいたから、気付けなかったっていうのもあるかもしれないけど。」

「いや、絶対に守が鈍感なだけだから。こんだけ鈍感なら、半年で3人からフラれるのも納得だわ。」

朱音は再び、俺に突っかかってきた。

「朱音、少し飲みすぎだよ。ちょっとワインは休憩。」
健は朱音からワインを取り上げると、水の入ったコップを手渡した。

結婚すると聞いたからなのか、今目の前で展開された二人のやりとりを見ると確かにカップルのような空気感が感じられた。
言われてみれば、この空気感を最近よく感じていたような気がした。

朱音は水を飲み干すと、俺の隣に座ってきた。
「なんだよ、朱音。」

「守、あんたがフラれる最大の理由を教えてあげよっか。」

「朱音に分かるのかよ、俺の彼女になったことないくせに。」

「分かるよ!何年一緒にいると思ってるのよ。」

「じゃあ、聞かせてもらおうか。俺がフラれる理由を。」

すると朱音は急に真顔になり、俺のことをジッと見つめてきた。
「あんた、初めての彼女のことをずっと引きずっているでしょ?で、常に、初カノと今カノを比べている。どう?図星でしょ?」

俺は何も言い返せなかった。
朱音の言う通り、俺はずっと初カノのことを忘れられずにいたからだ。
しかし、自分では比べているつもりは全く無かったのだが、もしかしたら無意識のうちに比べていたのかもしれない。

「なんも言い返してこないってことは図星なのね。」
朱音は勝ち誇ったように言い放った。

「守、初カノってヒナちゃんだろ?もう10数年以上も前の話じゃないか。
まぁ確かに、ヒナちゃんは可愛かったし、当時の二人を見てたらこのまま結婚するんじゃないかっていうくらいにお似合いだったけど。まさか、10数年も引きずっていたとは思わなかったわ。」
健は初耳といった感じで驚いていた。

「俺だって引きずりたくて引きずっている訳じゃないよ。ただ、どうしても記憶から消えないんだよ。ヒナの笑った顔や怒った顔、可愛い声とか付き合っていた2年間の色々な想い出が、ふとした時に蘇ってきちゃうんだよ。

二人は、そういったことないの?」

「うーん、私は無いかな。」

「そりゃ、朱音のようなタイプは無いだろうよ。」

「なにあんた、喧嘩売ってるの?」

「まぁまぁ落ち着いて。今のは守が悪いぞ。俺もないかな。」

「俺がやっぱり普通じゃないのかもしれないなぁ。なぁ、俺も二人みたいに結婚したいんだけど、どうすれば結婚できるかな?」

「それは初カノを忘れるしかないでしょ。」
朱音は呆れたといった表情をしていた。