「突然で悪いんだけど、私たち別れよう。あなたと一緒にいるだけで辛いの。」

『またか。』
俺は心の中で嘆いた(なげいた)

「なんだよ、突然。急に別れ話なんて。俺の悪いところは直すように努力するから、考え直してくれよ。」

こう言った所で彼女の答えが変わることが無いことくらい分かっている。これまで付き合ってきた女性たちは皆んな、別れ話をする時は覚悟を持って話をしてくれていたから。それでも、一度は『別れたくない』という気持ちを伝えてあげることが優しさなんじゃないかと俺は思っている。

「あなたの問題というよりは、私の気持ちの問題なの。分かって欲しい。あなたにはきっと私なんかよりお似合いの子がきっといるから。ごめん。」

そう言うと彼女だった女性は、俺の返答を待たず、テーブルの上に千円札を置き、立ち去っていった。一度くらい俺の方を振り返ってくれるかと期待して後ろ姿を見ていたが、一度も振り返ることなく前だけを見つめ、彼女は去って行った。


「ふぅ。」
俺は小さなため息をつくと、冷めきったホットコーヒーを流し込み、席を立った。

会計時、財布の中に今日これから、あの子と一緒に行く予定だった映画のチケットが入っているのが見えた。
「映画を観る気分じゃなくなっちゃったな。」
あの子が好きだった一番後ろの席を確保したチケット2枚を無駄にするのも勿体無いと思った俺は、映画館のチケット売り場で観る映画を探していたカップルに声を掛け、チケットを譲った。

『縁起の悪いチケットを譲ってしまって申し訳ない。君たちは俺のように別れないでくれよ。』
そんなことを思いながら、帰ろうと思っていた時、幼馴染の(たける)から連絡が入った。

『今、暇?』

『暇になった。』

『そっか、それはちょうど良かった。今からウチ来れないか?』

『良いよ。』

『おう、じゃあ、待ってるわ。』

俺は手ぶらで行くのも悪いと思い、ちょっと良いワインとつまみを購入し、健の家へと向かった。