帰り道、一年玄関の靴箱の間で言葉を交わす。
「ごめん。」
「いや、こっちこそ。これからは普通に友達のままで。」
「うん。ありがとう」
「じゃあ」
短い言葉を連ね最後に手を振る。その手は微かに震えていた。緊張で体が強張り、上手く歩くことができない。更衣室に残された部活用のリュックを背負い、階段を上る。慣れたはずの体育館までの廊下も上手く歩けない。冷たいドアノブを握る。重い扉を開ける。手前のコートでは三國先生が顧問の男子バスケットボール部が練習をしている。バッシュの擦れる高い音が響く。この音が好きだ。三國先生はまだ来ていない。男バスは三國先生がいないとビー玉を入れたガラスの瓶のように騒がしい。奥のコートでは私の所属しているバレーボール部が練習している。私は基本サボりだ。顧問の佐倉先生と揉めた。部活に来なくて良いと言われた。なので私は部活には行かない。佐倉先生が来る時間まで体育館のはじでボールと戯れる。後輩は優秀だ。私が体育館に現れると、こちらに駆け寄り一緒にサボる。私と同学年の部員は私のことを生ゴミのような目で睨む。だが私はなんとも思わない。世界には何十億人もの人がいる。そのなかで何人かの部員や顧問、元カレに嫌われてもまだまだ私を好きでいてくれる人、気に入ってくれる人がいるからだ。その何人かに愛されようと、気に入られようと努力するだけ、無駄だ。と私は思う。賛否両論あることは分かっている。私はボールを後輩に渡し、男バスの横を通り体育館を出る。毎日見る景色に嫌気がさした。というか飽きたのだ。なにをしようか。来た廊下を戻る。もう緊張もほどけた。歩ける。階段を駆け足で降り、学校にしかない天板が木製の机の上に置かれた消毒をする機械に手をかざす。消毒液が出る。いつも思うがこのタイプの機械から出る消毒液は量が多い。アルコールのにおいがマスクを通過し鼻に入る。つんとする。手に消毒液を馴染ませながらまた、歩く。教室に入る。だれもいない。だが窓が開いていてカーテンが揺れる。ベランダに置かれた紫の花が枯れかけている。美しかったあの花もいつかは枯れ、忘れ去られる。人間も同じだ。だなんてどうでもよい。自分の座席につく。誰もいない放課後の教室で一人。黒板を眺める。疲れた。人間関係も学校も部活も委員会も勉強も全部、全部。疲れた。いっそのこと消えたい。死にたいのではない。消えたい。私という人間が、生物が存在しなかったことにしてほしい。と心から思う。私という存在がなければ、よかった。酸素を吸い二酸化炭素を吐く。を繰り返す。いつまでも繰り返す。生きたくもないのに逝きたくもない、私はずっと。