政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~

【資料室】と書かれたプレートには、並んで【情報システム課】とある。

 扉を叩いてから「失礼します」と声をかけて部屋に入った。

 カウンター越しに、パソコンのモニターの上からチラリと視線を向けたのは加郷だ。

 軽く挨拶をして資料室の方に進み、並んだ棚のケースから目的のデータを探し出し、記録媒体を情報システム課のカウンターに置く。

「お願いします」

 データの管理は厳しい。資料室で管理されているデータは、情報システム課の社員に託し、サーバーの私用のフォルダーに落としてもらうことになっている。

 加郷にファイル名を伝えながら軽く背伸びをして奥の座席を覗いてみた。

 パソコンの陰にも人がいる気配はない。室内はコンピュータのモーター音が微かに響くだけだ。

「今日はひとりなの?」

 私をチラリと見た加郷は短く答えた。

「ああ」

 情報システム課は、普段から室温が低めに調整されているが、彼ひとりしかいない部屋は、いつにも増して寒々しく感じた。