政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~

 男性用香水なのか、爽やかでほんの少し甘い匂いだ。専務の方こそいい香りがするじゃないですか。

 うっとりとするような、頼もしくなるような大人の香り。

 すれ違う人の邪魔にならないように専務の腕を放すと、私を庇うようにして専務は私の後ろから腕を回し腰に手をかける。

「今夜はナンパな外国人客も多い、俺から離れるなよ」

「はい」

 ずっとこんな調子なんだろうか。だとしたら浮き立ちそうになる心を抑えるのが大変だと思ったけれど、そんな心配もなかった。
 次々と現れる人々とのあいさつだけで余裕がない。

 『コンバンハ』と片言の日本語で話しかけてくる人もいれば、専務から声を掛けたり。会場は既に大勢の客で賑わっていて、私は専務の隣にいるだけで精一杯だ。

 やがてパーティが始まり幾人かのスピーチのあと、ピアノ演奏やオペラ歌手のミニライブが始まって、その頃にはようやく固まっていた肩の力も抜けてきた。

 専務は相変わらず挨拶やら世間話に忙しいけれど、合間に私を気にかけてくれる。