政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~

 その都度匂いがキツくはないか確認していたけれど、みんな遠慮していたのかもしれない。

「すみませんでした、気をつけますね、私」

「違う違う。いや、いいんだ。ほんの微かな香りだから気にしなくていい。そのままで」

「……でも」

 だって、だから遠巻きにしていたんですよねと思うのに、専務は更に私を説得するように繰り返す。

「いい香りだと思うから聞いたんだ。気にしないで」

「そう、ですか」

「ああ、好きだよ。俺は」

(す、好き?)

 過剰に反応してしまい心臓が暴れ出す。

 何を考えているの、香りの話よと自分に言い聞かせた。

 専務の腕にかけた手の、手首で光るブレスレットがいけないんだと思う。『はずすなよ』なんて言うから混乱してしまうんだ。

 専務には縁談がある。
 あっちもこっちも大企業や資産家の令嬢ばかり。それを忘れちゃいけない。

 前から歩いていく人とすれ違おうとして、専務が私に体を寄せた時、ふわりといい香りがした。