政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~

 頭の中も整理しきれず胸の内も混乱のさなか、車は早くも会場へ到着したらしい。

 車を降りると、当然のように先回りしてエスコートをする専務の、差し出された長い指に手を添える。

 緊張しながら会場へと進むうち、専務が聞いてきた。

「君のこの香り。何ていう香水なんだ?」

「香水? いえ、私は香水は使っていないですが」

「だけど君は、いつも甘い、その……、薔薇のような香りがするだろう?」

(薔薇? ああ、もしかして)

「ああ、それなら、ポプリの香りかもしれませんね」

「ポプリ?」

「ええ。昔から母が薔薇が好きで。ポプリを作ってくれるので、部屋のあちこちに置いてあるんです」

 専務を見上げると、彼は驚いたように目を見開いていた。

「あ、もしかして、香りがきついですか?」

 彼が遠巻きにしていた理由はそれ?

 香りに慣れてしまった自分では気づかないけれど、害を及ぼすほど匂っていたのか。

 咲子さんに『紗空ちゃん、いい香りがする』と言われたことがある。加郷は『吉月は花の匂いがする』と言っていた。