政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~

 それだけじゃない。私の部屋は三階で、なんとなく気になってベランダに出てみると、専務はリムジンの脇に立って私の部屋を見上げていた。

 私が頭を下げると、軽く右手を上げてニッと微笑んで、それからようやくリムジンに乗り込んだ専務。

 あれは何? まるでデート帰りみたいじゃない?

 混乱する。

「何なんだろう、あの気の使い方は。私が辞めると困る理由でもあるのかな」

 須王専務を脅せるような権力者は私の背後にはいないし、そもそも私は専務を困らせてまでtoAにいたいわけじゃないのに。

 『それは言えない』の一言で、私のtoA配属の謎も、西園寺に行けるかどうかも闇に葬られてしまった。言えない"それ"って何なのよ。

 まあそれでも、私にとって良い展開には違いない。

 とにかく仕事にありつけるのだから。

 今日から新たな気持ちで、とりあえずがんばろうと胸が弾む。

 ドライヤーをかけながら気づけば歌なんて歌ったりして、のりのりの自分に思わず笑ってしまう。