政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~

 弟は大学進学を控えているが、いずれは証券会社で働きたいらしい。グローバルな環境で多様性を身につけたいとアメリカの大学を希望している。頭のいい子なので応援したい。

 とまあそういう理由もあり、いずれ両親の手伝いは私がしようと思っている。

 何を思うのか、真面目な顔を崩さない専務は「そうか」頷いた。

「ええ、不動産鑑定士や宅建も学生のときに取りましたので」

「そうなのか?」

 そうですよ。
 今更そんなに驚きますか?

「ええ、まぁ……」

「toAではダメか?」

 へ? それを言う?

「あ、あはは、いえ……」

 今ここで、この状況で、専務にダメだなんて言えるわけがないでしょう? 人事部長とか他の人になら全力でダメと言えるけれど、あなたにだけは言えませんって。

 心の声空しく、ジッと私の返事を待つ専務に不本意な返事を返した。

「ダメだなんてとんでもないです。ありがたいことです、はい」

 今の返事で西園寺行きは泡と消えるのか。

 内心愕然とする私に、専務はニッコリとうれしそうに笑いかける。

「そうか、よかった」

 よくないですよ……。

 まさかもしかして、西園寺行きの切符は消えたの? 専務が燃やした?