政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~

 すると須王専務は、書類を睨んだまま、低い声で「ありがとう」と言う。

 その声に答えるように頭を下げ、密かに思う。世界広しといえど、こんなに怖い『ありがとう』は他にはないだろう。

 とにかくこぼさないでよかった。なるべく足音をたてないように静かに、でも素早く専務室を出た。

「失礼します」
 静かに慎重に扉を閉める。

「――ふぅ……」

 イケメン御曹司なんて言っている彼女たちはわかってない。

 例えるなら彼は鋭い棘を持つ『漆黒の薔薇』。うっかり触れてしまうとその棘でグサリと深く傷をつけられる。

(世にも恐ろしい棘があるんですよ、専務には)


 ***


 月日が経つのは早い。

 秋晴れの朝は気持ちがいいけれど、冬に向かう北風は日を追うごとに冷たさが増してくる。それもそのはず気づけばもう十一月だ。

 相変わらずの日々だけれど、ようやくこの状況に慣れてきた。