政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~

 寝ている彼をうっかり起こしてしまったらどうなるのか? 想像するのも怖い。サファリパークでうっかり怒らせてしまったライオンに襲われるようなものだ。

 だから誰も近づかなかった。

 彼は恐い恐ーい人なのである。

 社会人になって専務にまで昇りつめた今は一見丸くなったように見える。結界も小さくしているようで、社内で見かける彼からは恐怖のオーラなど感じない。

 でも、ここ専務室では違う。

 彼は遠慮なくオーラを放っている。強い時はオーラに色まで見える気がする。その色は決まって黒だ。今朝の黒はちょっとやそっとの黒じゃない。

 ――真っ黒。

 椅子に深く掛けた須王専務は、肘掛にかけた右手の指先をこめかみのあたりにおいて、仰ぐように書類を見ている。

 眉をひそめて、ねめつけるそのさまは不機嫌の極みといったところだ。

 コーヒーが入ったカップを叩きつけられたらどうしよう。そんなことはありえないと思いつつも、ドキドキと怯えながら机の隅にそっとカップを置く。