政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~

 彼の周りには明らかな結界がある。私が密かに須王結界と呼んでいる空気の幕だ。恐怖のオーラとも言う。

 あれは私が青扇学園に入学して数か月たった頃。学園の図書館で、机に片腕を投げ出して無防備に見える須王燎の寝姿を、女の子たちがよく物陰から見つめていた。

 実際その乱れた前髪から覗く長い睫毛や、すっと鼻筋の通った高い鼻に薄く開けた唇は、時間を忘れて鑑賞していたい美術品のように美しかった。

 美しさは今も変わらないけれど、当時の彼はもっと尖っていた。薔薇の棘みたいに。

 だから誰も彼には近づかなかった。

 ひとたび瞼が開いてしまえば、美しいはずの瞳は氷のように冷たい光を放つと知っていたから。

 その瞳に他人を受け入れる優しさや穏やかな明るさはない。ただただ危険で尖った眼光。

 恐怖を感じさせるのは目元だけじゃない。拳に巻かれた包帯から薄っすらと血が滲んでいたこともあるし、形のいい口元に浅黒く殴られたようなアザができているのを見たこともある。