「大使の息子に紹介しろと言われて、紗空は俺のものだ。誰にも渡せないと思った」

(専務?)

「北海道で。酔っていて覚えていないか? 言っただろう? 俺はお前のことを大切に思っているって」

「――夢かと思っていました」

 だってそんなはずないもの。

 あまりにも遠い存在だったから、私のことなんて、気にするはずないって。

「てっきり、嫌われているって思っていたから……」

「ごめんな」

 専務は何度も謝りながら、私を抱きしめる。

「本当に、私のこと……」

「ああ、好きだよ。自分でも驚くくらい君が好きだ。――愛してる」

 やっぱりマンションになんて来るんじゃなかった。

 どこかでお店に入るつもりでいたけれど、部屋の方がゆっくりできるかと思って、誘って。部屋を見たいと専務が言って。

 そして、見つめられている。

「さあ、名前で呼んでみて」

 呼びますよ。呼びますけど、そんなふうにジッと見つめられたらとっても言いづらい。

 戸惑っている間に、また専務の顔が近づいて。

(――あ)