「何言ってるんですか。私がモデルになれるわけないですよ」

 身長は165センチしかないし、華やかな舞台も苦手だし、そもそも私みたいな特徴のない平凡な女にモデルが務まるわけがない。

 なのに、彼は私の髪を撫でて「十分なれるよ」と言う。

「でも、ならなくて正解だ。俺が気が気じゃない」

「専務?」

 それって、どういう意味ですか?

「専務は禁止。名前で呼んで」

 耳元でそう囁きながらふわりと近づいて唇を重ねる彼。

 私はくらくらして、まだ三時なのにとよくわからない言い訳をする。

「紗空、俺はしつこいぞ」

 言いながら、指先はずっと動いている。

 ツンツンと耳を突かれて、ハッとしたように片方の肩をすくめた。

 今のはなんだろう。まるでビリビリと背筋に電流が走ったように何かが駆け抜けた。

 そんな私を見て、クスッと笑った専務は「かわいいな」とまたキスをする。

「いつからか、気が付くと紗空を見ていたよ」

 ――え?