まさかそこを見られていたなんて!

 場所は池のほとりにある大きなハナミズキの下にあるベンチ付近。あの時、蘭々さんの近くには西園寺さんと氷室さんしかいなかったはずだ。

「どこにいたんですか?」

「反対側のベンチ」

 池はそんなに大きくはないから反対側といっても20メートルくらいしか離れてはないはず。

 でもあの時は心臓をバクバクさせながら、蘭々さんしか見ていなかったから、池の反対側を見た記憶もない。

「そうだったんですか。気づかなかった」

「てっきりコウか仁に渡すんだろうと思って見ていたら、まさかの蘭々だもんな」

 コーヒーを飲みながらクスクス笑う彼に、私は西園寺ホールディングスに行きたかった理由を正直に話した。蘭々さんに会いたくてと。

「ほら、見てください私の待ち受けも蘭々です」
 と言っても部屋のあちこちに蘭々さんの写真があるから、とっくに気づいているだろうけれど。

「そんなに近くに行きたきゃ蘭々と同じモデルにでもなればよかったのに、随分遠回りだな」