専務は片手で軽々とハンドルを回す。私の力ではあんなふうにはできない。

 力強い手つきに胸がキュンと疼いて、なにをやっていてもかっこいいなと、ますます胸が高鳴って。

 なんだかんだと、私はずっとドキドキしながら専務を案内してマンションに来た。

 オーナーになっていたマンションは手放してしまったけれど、別宅にしていたマンションはそのまま残っていた。父が最後の手段に残しておいたらしい。

 私はマンションのほうに住んで就職するつもりでいたから、荷物はほとんどがこっちに置いてある。

 というわけで、今、専務は私の部屋にいる。

 懐かしい青扇学園時代のアルバムを渡したから、見ていると思う。

 なんだか夢みたい。



「お待たせしました。はいどうぞ」

「ありがとう」

 専務は私の写真を見ながら、「懐かしいな」と言う。

 その言い方がなんとなく気になって、まさかと思いながらも思い切って聞いてみた。

「あのぉ、もしかして、専務、青扇の頃の私を知っているんですか?」

 専務は、返事の代わりに目を細めてにっこりと微笑んだ。

「バレンタイン。蘭々にチョコレートあげていただろう?」

「えっ」