『だったらなんだ。お前は? 同期でずっとただの仲のいい友人か』

『仕方ねえだろ。あいつは男性恐怖症だったんだ』

『男性恐怖症?』

『大学生の時、クラスメイトからストーカーの被害に合って、以来男に言い寄られるのが恐怖なんだと。知らなかったのか?』

 全く知らなかった。

『そんな話を聞かされたら何も言えねえだろ。それがなんであんたは。クソッ』

 紗空が他の男に持っていかれる可能性は十分あったのに、無事でいられたのはそういう理由があったとは。

 俺の中では、蘭々に瞳を輝かせる少女の紗空のまま時間が止まっていたのか。

 我ながら時間かけすぎだろ。

 そんなことを思い返すうち、リムジンが高速から降りることに気づき、あらためて薔薇の花束を見つめた。

 薄いガラスの薔薇でも扱うように、何よりも大切に思ってきた彼女。

 気が付けばもう八年も追いかけていた。

 自分の気持を持て余し、戸惑い、君を大切に想い過ぎて、結局なにも伝えてもいなかった。だから今日はきちんと伝えよう。