それが苛立ちになり、気が付けば酷い言葉で彼女を傷つけてしまった。

 泣きはらした紗空を見た時は、本気でうろたえた。

 心底自分を呪い、自分で自分の首を絞めてやろうかとどれだけ後悔したか。

 ――紗空……、

 紗空。頼むから笑ってくれ紗空

 それしか考えなくなっていた。

 負けを認めるのは慣れていない。

 他の香水で匂いを上書きしたらどうだろうと、渡したけれどやっぱりだめだった。
 全ては悪あがきだ。

 紗空にキスをしたあの日、諸手を挙げてそれを認めた。

 女王に跪く騎士のように、紗空に全てを捧げようと。

 本当は、どこかで気づいていたのかもしれない。

 雪が舞うクリスマスの薔薇の家で、大輪の真紅の薔薇にキスをする紗空を見たあの時。

 図書館の窓から夕焼けを見つめる横顔を見たあの時も。

 多分気づいてた。

 ――出会ってから八年? 我ながら、こじらせたもんだ。

 認めたくないばっかりに。


 加郷に言われた。

『紗空を西園寺じゃなくtoAに引っ張って来たのはあんたなんだろ』

 加郷は社内のパソコンの隅々まで見ていたのだろう。紗空の人事や待遇が他の社員とは違うとすぐに気づいたらしい。