西園寺の就職試験に紗空が来たことを知ったのは偶然だった。
これはいい機会だと思った。
自分の心にいつの間にか棲みついている奇妙な感情に、今こそ決着をつけようと思い立った。
それでもまだ、『恋』という言葉は頭に浮かんでこなかった。
騙し討ちのように紗空を入社させたものの、後ろめたさもあって彼女のために自分名義でマンションを用意し、人に頼んで女性仕様の部屋に仕上げた。
予定では一年で帰国できるはずだった。それが仕事の関係でなかなか帰国できず、三年が経った。ようやく日本に帰ったあの日、toAのエントランスホールで"例の香り"に気づいた。
かつてないほど強く胸を締め付ける、懐かしい甘い香り。
離れていた長い年月で忘れていたはずが、むしろ鮮明に薔薇の家での記憶を呼び起こした。
ショックだった。
気を取り直し、身近に置いてしまえば慣れてすぐに飽きるだろうと思った。
でも、その読みも外れた。
吉月紗空のことになると全てが思い通りにいかない。
これはいい機会だと思った。
自分の心にいつの間にか棲みついている奇妙な感情に、今こそ決着をつけようと思い立った。
それでもまだ、『恋』という言葉は頭に浮かんでこなかった。
騙し討ちのように紗空を入社させたものの、後ろめたさもあって彼女のために自分名義でマンションを用意し、人に頼んで女性仕様の部屋に仕上げた。
予定では一年で帰国できるはずだった。それが仕事の関係でなかなか帰国できず、三年が経った。ようやく日本に帰ったあの日、toAのエントランスホールで"例の香り"に気づいた。
かつてないほど強く胸を締め付ける、懐かしい甘い香り。
離れていた長い年月で忘れていたはずが、むしろ鮮明に薔薇の家での記憶を呼び起こした。
ショックだった。
気を取り直し、身近に置いてしまえば慣れてすぐに飽きるだろうと思った。
でも、その読みも外れた。
吉月紗空のことになると全てが思い通りにいかない。



