男子生徒に絡まれているその子を助けはしたが、香りの元を確認できたことに満足し、それで終わったはずだった。

 その証拠に、その後も図書館でその女子生徒を見かけることがあったが、だからといってなにがあったわけではない。ただ、時折風が運んでくる例の香りを感じただけだ。

 彼女は、集団の中でひっそりと息をしていた。

 図書館でみかける時はひとりでいることが多く、俺と目が合うと申し訳なさそうにすぐに瞼を落とす。

 何かをあきらめて、ここにはない遠くを見ているような、いつもそんな瞳をしてぼんやりと外を見つめていた。

(でも、あいつなんだよな? 俺の手に絆創膏を貼ったのは)

 そんなことをするのだから、さぞかし活発な女なんだろうと思っていただけに、燎はキツネにつままれたような気分だった。


 ある時、気づいた。

 その視線の先にコウや仁がいる時だけ、彼女はその瞳を輝かせた。

 わかりやすいほど頬を高揚させ、それはそれはうれしそうに、彼らを見つめる。

(恋か……)