車のガラス越しに須王専務と目が合った。と、思う。今日に限って、専務は運転手の後ろじゃなくて、助手席の後ろに座っていた。

 何の感情も映し出さずに私から加郷へと視線を移した専務の瞳。

 信号が変わり、私と加郷が通り抜けるのを待って、専務を乗せた車は地下の駐車場に入っていく。

「じゃあね、加郷。私、専務が戻ったから、行かなきゃ」

「あぁ、がんばれよ、お茶汲み」

「もぉーバカにして」

 笑いながら加郷と別れたけれど、心は気が気じゃない。

 今、専務からは、どんな風に見えた?

 会話は聞こえた? 窓は閉まっていたから聞こえるはずがないけれど。

 私、どんな風に加郷と話をしていたっけ?

 すごく近かった、加郷の顔。もしかしたら、専務に軽い女だと思われたかも?

 軽蔑したかも……。

 胸の中に暗雲が厚く広がっていく。

 どう思われたとしても、私と専務は付き合っているわけじゃない。

 わかっている。痛いほど十分にわかっている。