「加郷、本当に辞めちゃうの?」
「あぁ」
「辞めてどうするの?」
「海外のどこかに行く。幾つか住んでみたい国があるし」
「外国? いつ頃辞めるの?」
「早くて年末かな、まだ誰にも言ってないから、何とも言えない。引き継ぎのこともあるし」
「そっか……」
もともとtoAで長く働くつもりは無かったと、加郷は言った。
「学生時代からコツコツ、それなりに資金も貯まったしな」
加郷は掴みどころがない。吹き抜ける風のように、ある日ふいに消えてしまいそうなところがあった。だから、あてもなく外国へ行くと聞いても、それはそれで加郷らしいと思う。
でももう会えないのは寂しい。
『断るように言えばよかったな、クソッ』
聴き逃したように流したけれど、その言葉が意味するものがなにか気づかないほど私だって鈍感じゃない。
もしかしたらと、思ったこともある。
なのに、あえて気づかないようにしていたのは、このまま仲のいい同期の関係でいたかったからだ。
専務に惹かれながら、加郷の優しさに甘えていた。
「あぁ」
「辞めてどうするの?」
「海外のどこかに行く。幾つか住んでみたい国があるし」
「外国? いつ頃辞めるの?」
「早くて年末かな、まだ誰にも言ってないから、何とも言えない。引き継ぎのこともあるし」
「そっか……」
もともとtoAで長く働くつもりは無かったと、加郷は言った。
「学生時代からコツコツ、それなりに資金も貯まったしな」
加郷は掴みどころがない。吹き抜ける風のように、ある日ふいに消えてしまいそうなところがあった。だから、あてもなく外国へ行くと聞いても、それはそれで加郷らしいと思う。
でももう会えないのは寂しい。
『断るように言えばよかったな、クソッ』
聴き逃したように流したけれど、その言葉が意味するものがなにか気づかないほど私だって鈍感じゃない。
もしかしたらと、思ったこともある。
なのに、あえて気づかないようにしていたのは、このまま仲のいい同期の関係でいたかったからだ。
専務に惹かれながら、加郷の優しさに甘えていた。



