政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~

 部屋がひとつしか取れなかったことは私と専務だけの秘密だ。梨花さんにも、もちろん加郷にも本当のことは言えない。

「断るように言えばよかったな、クソッ」

 ――え?

「いや別に。俺さ、ちょっと転職考えていて。あ、これ絶対に誰にも言うなよ。もちろん専務にも、まだ内緒だぞ」

「転職?」

 突然で予想外の、加郷の告白だった。

「なんで? どうして転職なんか? やだやだ、加郷がいなくなったら困る!」

「じゃ一緒に辞めようぜ」

「それはダメ。ここのお給料がないと困るもん」

「実家、まだ大変なのか?」

「ううん。もう大丈夫よ。でも、心配かけたくないし」

 実家の窮地は、加郷にも大まかに話していた。

 でも、須王専務に一千万円借りた話はしていない。

 秘密はそれだけじゃない。パーティで彼にキスされた話もしていなかった。

 いままでずっと加郷にはなんでも言えたのに、言えないことがひとつふたつと増えていく。

 なのに、加郷にはずっと頼りたいと私は思っている。