政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~

 ホッとしたし、泣きたくなるほどうれしかった。

 嘘を信じてくれたのかどうかはわからないけれど、私は覚えている。

 記憶に刻まれてしまった専務のキス。

 ――あぁ。

 もうどうしたらいいの?

 お昼休み。加郷行きつけの店に行ってみることにした。

 こんな時は加郷を頼るしかない。

 彼はいままでも現実世界を突き付けてくれた。専務の縁談の話をしたときもそうだった。

『愛のない結婚なんて、お互い不幸じゃない?』

『吉月、お前は甘いんだよ』

『どういう意味よ』

『専務だって須王家を守ることしか考えちゃいないさ。縁談を選り好みしているだけで、やつらにとっての愛は、安泰の未来。好きな女ができたら愛人にすりゃ済む話だろ』

『愛人?』

『そうさ。夫婦揃って愛人がいる。そういう世界に、愛のない結婚という不幸は、存在しないんだ』

『なにそれ、すごい偏見』

 口ではそう言ったけれど、心ではよく知っているわねと答えた。