政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~

 専務は縁談を断っているらしいけれど、もしかしたら恋人がいるのかもしれない。操をたてたくなるような誰かが。

 泣きたくなる気持ちに耐えた。

(よかったのよこれで)

 時計を見ると朝の五時。外はまだ暗い。

 フットライトの灯りを頼りに寝室からリビングに出て、その向こうにある別の寝室に耳を澄ませたけれど何も聞こえなかった。

 専務はまだ寝ているのだろう。

 静かに浴室に行って、音をたてないようにひっそりと温泉に入った。

 寂しさと悲しさと。切なさが入り混じった胸の疼きは、もうすぐ訪れるだろう夜明けと共に仕舞い込まなければ。

 惨めな気持ちに耐えられず、ブクブクと湯船の中に沈み込むうち、

 ――ぁ。

 ふと思い出した。

『紗空、俺はお前のことを大切に思っている。お前が思いもよらないほどな』

 私をベッドに横たえた後、彼はそう言って頬を撫でて、そっとキスをしてくれた。

 それともあれは夢?


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