政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~

 そのうちの誰かと、結婚しちゃうんでしょ?

『ふーん それで俺がキライ?』

 キライです……。キライ。

『じゃあ、どうして逃げないんだ?』

 え? フフフ。

 専務、たまには負けたっていいじゃないですか。

『今度は何の話だよ』

 負けてしょんぼりする専務が、見てみたいです。

『え?』

 そうしたら、私が慰めてあげるのに。

 私が専務を慰めてあげられるのに……。


 専務、キスして。

   せめてもの想い出に……。




「……ん」

 薄っすらと瞼を上げると小さなオレンジ色の灯りが見えた。

(えっ!)

 フットライトが灯る暗い部屋。目を覚ました場所は、ベッドの中だ。

 驚きのあまり大声を張り上げそうになって、慌てて口を手で塞ぐ。

 そっと布団から顔を出して部屋を見回したけれど、静まり返った寝室にいるのは自分だけ。専務はいない。

(ああ、よかったぁ――)

 ひとまず安心した。

 それから少しずつ、覚醒するにしたがって夕べのことが呼び起こされてくる。