唯side


「それで、明日からなんだ!唯のひとり暮らし。」
ガヤガヤした教室の端の机で、恵麻(えま)ちゃんが身を乗り出して聞いてきた。
「うん。ひとり暮らしなんて初めてだし、あまり実感湧かないなぁ」
私がそう言うと、恵麻ちゃんがワシャワシャ頭を撫でてきた。
「不安ならいつでも遊びに行くから~っ!」
「あ、それは心強いかも!」
私たちは、「あははっ」と笑いあった。

恵麻ちゃんは、私の大切な親友だ。
明るくてクラスの人気者で、ちょっぴり心配性な恵麻ちゃんが、私は大好きなんだ!
高校一年生の初っ端は、恥ずかしくて誰にも話しかけられなかった私に、明るく話しかけてきてくれたのが恵麻ちゃんだった。
それからは意気投合しちゃって、今では大の仲良し!

「お泊まりにもまた来てねっ」
「行く行くっ!凄い楽しみだな、唯のおうち♪」
「そんなに楽しみにされたらさすがにプレッシャーだよ~」

そんな風に楽しく会話をしていると、先生が教室に入ってきた。
HR(ホームルーム)始めるぞ、はやく座れ~」
「やば、席に戻るね!」
恵麻ちゃんはそう言って、自分の席へと帰っていった。

黒板の前で、先生が話し出す。
私は、先生の話をあまり聞かず、窓の外をボーッと見つめた。

もうすぐ、私はひとり暮らしを始める。
(やっぱり、ものすごく不安だな…)
初めて、誰の手も借りずに暮らすんだ。
上手く出来るかどうか、分からない。
(でも、やると決めたんだ。一生懸命、頑張るっきゃない!)
私が決意をした時、先生の大声が響いた。

「オイ、藤沢(ふじさわ)!藤沢 唯!!」
「はひっ!」

話を聞いていないのがバレたみたいだ。
うーん、こんなので私、ちゃんと暮らしていけるかな~…?