機材が色々置かれ、少し肌寒い防音室に俺は足を踏み入れる。少し緊張しながらマイクの前に立ち、ヘッドフォンを着けて大きく息を吐いた。大学生の頃からこうして活動しているけど、未だに歌を録る前やライブ前は緊張してしまう。

俺の名前は音坂月斗(おとさかつきと)。身長百七十五センチの二十七歳。歌い手ルーンとして活動している。

歌い手というのは、動画サイトに自身の歌ってみた動画を投稿する人のことだ。最初の頃はボカロをよく歌って投稿していたけど、プロのアーティストとして活動することを決めてからは作詞作曲をすることが多くなった。

「ルーンくんの歌にいつも励まされてます!」

「ルーンさん、大好きです。ずっとリスナーでいます」

「ライブ、本当に楽しみです!新曲、とってもかっこよかった!」

リスナーさんがこうして応援してくれるから、リスナーさんのために頑張ろうって思える。こうしている間にも、きっとどこかで俺の歌を聴いてくれている人がいると思うから……。そう思うと、緊張は少しずつ薄れていった。