「すみません」

 そう声をかけられて我に返った。

「はい。ごめんなさい。すぐに出ます」

「いえ、そうではなくて」

 このスーツの女性はどこかで見覚えがあった。

「まひるさん、ですよね」

「はい、そうです」

「よかった―見つからなかったら怒られるところでした」

 心底ほっとしたような顔をして、胸に手を当てる。

「あの?」

「申し遅れました。私、ユウヒのマネージャーをしている芦田と申します。説明する時間がありませんので、とにかく一緒に来てください。こっちです」

 マネージャーの女性は私の腕を掴むと、速足で歩きはじめる。

「すみません。いったいどこへ」

「楽屋です。ユウヒがあなたに会いたいそうです」

「雄飛が?」

「まったく、わがままが過ぎますよね。社長に知られたら怒られるのは私なのに」

 ぶつぶつといいながらも女性はずんずんと進んでいく。

「ここです。どうぞ中へ」

 白い扉の前で女性は私の手を離した。

「入っていいんですか?」

 私は躊躇していた。雄飛に会えるのは願ったり叶ったりのはずのこと。でも、突然のことで心の準備がまだできていない。

 会ったらまず、なんて言おう。ひさしぶり?ううん、違う。どうして連絡くれないの?これも違う気がする。

 あれこれ考えていても何も始まらない。私は意を決して目の前のドアを開けた。