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 帰ろうか悩んだけれど、雄飛の出演は最後に変わったとのアナウンスを聞いて、会場にとどまることにした。

シッターさんにLINEすると朝飛は目を醒ましてしまったけれど機嫌よく遊んでいると連絡がきた。ほっと胸をなでおろす。

「いよいよラストのアーティストとなりました」

 女性司会者が両手にマイクを持って声を張り上げた。

「機材トラブルの関係で順番を変更しての出演となります。ユウヒさんです」

 なぜか秋山さんの乱入はなかったことにされている。大人の都合というやつだろう。

とにかく雄飛に存在をアピールして連絡をもらえるきっかけにでもなればそれでいい。

雄飛の登場に会場のあちこちから声援が飛ぶ。私はステージ上の彼を見つめた。

バックバンドが音を奏で始めて、雄飛のギターの音が重なる。伏せていた視線を前に向け、こちらを見た。

「雄飛。どうして……」

 明らかに私を見つめている。気のせいなんかじゃない。

雄飛は静かに歌いはじめる。まるで耳元でささやく愛の言葉みたいに丁寧に紡がれた歌詞に感動して涙がこぼれた。

出会って惹かれ合って、愛し合って別れて。それからまた再び巡り合ってもう離れないと決めた。

「そう、だったよね」

 でも、いま私たちはまた離れようとしている。

歓声と拍手に包まれて、雄飛は大勢の観客たちに手を振っていってしまった。私はしばらくそこから動けなかった。