女性の後に続いて、三田社長が中に入ってくる。
「ありがとう、下がっていていいわ」
そう言って人払いをすると私の向かい側のソファーに身を沈めた。
白のシャツにグレーのパンツスタイルというシンプルな出で立ちながら、まるでファッション誌から抜け出てきたような雰囲気を醸し出している。
芸能人オーラとはこれのことを言うのだろう。
「お忙しい中お時間いただいて、申し訳ありません……あの、私の事……覚えてらっいますでしょうか?」
緊張でうまく言葉が出てこない。握り締めた手のひらにジワリと汗がにじむ。
「もちろん覚えていますよ、小森まひるさん」
「あ、ありがとうございます。覚えていてくださって、」
「ご用件は?」
私の話を遮るように三田社長は言った。
「用件は……以前いただいたお金をお返しに来ました」
私は手元に用意しておいた封筒をテーブルの上に置いた。
「五百万です。やっぱり私、雄飛と別れることはできません」
言ってやった。これももう、私は三田社長に後ろめたさを感じなくて済む。
「そう。分かったわ」
三田社長は表情一つ変えずにそう言った。
拍子抜けだ。こんなにあっさりと受け入れられるなんて思わなかった。
「いいんですか?」
「ええ。それがあなたの気持ちなんでしょう。でも、ユウヒはどう思っているかしら?」
三田社長はそう言って不敵な笑みを浮かべる。その怖いくらいの美しさに思わず背筋が凍った。
「……どういう意味ですか?」
雄飛だって私のことを愛しているはずだ。もうすぐ入籍して家族になるんだから。
「どういう意味かですって? 自分の胸に聞いてごらんなさい」
そう言って三田社長は立ち上がり部屋を出ていく。
「ま、待ってください!」
追いかけようとしたが社長に何を言ってもこれ以上は取り合ってもらえないような気がして、私はそのまま事務所を後にした。


