推しの子を産んだらドラマのヒロインみたいに溺愛されています(…が前途多難です)


三日後。不動会社から入金が済んだとの連絡が入り、私は銀行へと向かった。窓口で出金の手続きをして五百万円を受け取った。

それをリュックサックの一番奥に入れ、前で抱えるようにして背負う。

昼時の渋谷は人通りが多い。ひったくりに会うんじゃないかと警戒しながらとあるオフィスビルの一角を目指す。

「ここだ……」

 オフィス三田と書かれた自動扉の前でインターフォンを押すと、女性の声で応答があった。

『はい。オフィス三田でございます』

「あの私、小森と申します。三田社長にお会いしたいんですが……」

『小森様……お約束は頂いてますでしょうか?』

「いえ、約束はしていません。でもどうしてもお会いしたいんです」

 追い返されるかもと思った。しかし、少しの沈黙のあと、女性はこういった。

『……少々お待ちください』

 ブツリと通話が切れ、私は扉の前で祈った。

――どうか、面会ができますように。