推しの子を産んだらドラマのヒロインみたいに溺愛されています(…が前途多難です)


「――さん、まひるさん。大丈夫ですか?」

 秋山さんの声に起こされて、私は重い瞼を押し上げた。

「……秋山さん……? ごめん、爆睡しちゃってた」

「起きれます?」

 そう言われて起きかがろうとしたけれど、思った以上に体が言うことを聞いてくれない。異様にだるくて、眠かった。

「……なんとか起きられそう。ところで今何時?」

 なんとなく外が薄暗くなっている気がする。

「十八時ですよ」

「そう、十八……っ、大変! シッターさんの時間過ぎちゃってる。どうしよう」

 慌てて枕元に置いていあるはずのスマホを探した。

「落ち着いてください、まひるさん、大丈夫ですよ。俺の方に連絡が来たんで延長してもらいました」

 忙しい雄飛に代わり、秋山さんを緊急連絡先にしてあったのだ。

「そうだったの? よかった」

 思わず全身の力が抜けた。

「じゃなくって、ああ、もう。ほんと最低……」

 朝飛を預けているにもかかわらず、酔っぱらった挙句に寝過ごしたなんて母親失格だ。それにこの部屋だって……、デイユースの時間はとっくに過ぎているだろう。

「ごめんね、秋山さん。とにかく急いで帰らないと」

 私は立ち上がり、バッグを手に持った。頭痛がして足がおぼつかないけれど、そんなことは言ってられない。

「ですね。行きましょう」

 秋山さんは私を車に乗せると、ナビを駆使しながら一番早いルートでマンションまで送り届けてくれた。

エントランスで車を降りると私は深々と頭を下げた。

「秋山さん、今日は本当にありがとうございました。ご迷惑ばかりおかけして本当にごめんなさい」

「こちらこそ、お酒飲ませ過ぎてしまってすみませんでした」

「いえ、そんな。私が悪いんです。いつもはこんなに酔うこともないのに……」

「あ、ほら。朝飛くん待ってますよ、行ってください」

 私はもう一度秋山さんに頭を下げ、朝飛の待つ部屋へと急いだ。