推しの子を産んだらドラマのヒロインみたいに溺愛されています(…が前途多難です)

料理が並び終えるころ、秋山さんが温泉から出てきた。

「浴衣、着たんですね」

 思わず目をそらしてしまった。

「はい。熱くて服着れなくて……なんか、ダメでした?」

「ううん、いいの。全然気にしないで! 早く食べよう」

「そうですね、めちゃ旨そう!」

 秋山さんが席に着くと、女将さんがシャンパンのボトルを持ってやってきた。

「秋山様。こちら当旅館からのサービスです」

 グラスがテーブルに置かれる。

「ありがとうございます。残念ですが僕は運転があるので彼女に。まひるさん、飲まれますね?」

「……ううん、秋山さんが飲まないのに私だけ飲めないよ」

「いいじゃないですか。日頃は朝飛くんもいてなかなか飲めないわけだし今日くらい。帰るころには酔いも醒めますよ。遠慮なくどうぞ」

 秋山さんがそういうと、私のグラスにシャンパンが注がれる。ラベルを見ればわかる高級なお酒だ。ここまでされて飲みませんとは言いにくい。

「……一杯だけ、いただくね」

「じゃあ、乾杯しましょう」

 秋山さんはそう言ってウーロン茶のグラスを掲げた。

「乾杯」

 シャンパンを一口口に含む。さわやかな香りと口当たり。いくらでも飲めちゃいそう……。

「おいしいですか?」

「……おいしい、です。でもこの一杯だけで十分かな」

 自分にも言い聞かせるように言った。すると秋山さんは「え?」と声をあげる。

「飲まないなんてもったいない。それじゃあ、快気祝いということにしましょうよ。それなら後ろめたさもないでしょう?」

「快気祝い?」

 腕の骨折の完治したお祝いということか。

「そうです。さあどうぞ」

 秋山さんはボトルを手に取ると、私のグラスに継ぎ足した。

「い、いただきます」

 この一杯だけにしよう。そう思ったけれど、秋山さんはグラスが開くとすかさず継ぎ足してくれる。

食事もおいしく、勧められるがまま飲んでいると、ついにボトルを一本空けてしまった。