「まあ、僕が思うに君の声ならバラードが一番映えるんじゃないかなと思うんだよ。ぜひとも聴いてみたいものだね」

山上さんはそう言ってウインクした。なんてチャーミングな人なんだろう。けれどそれは俺に向けられたものではない。彼の視線の先を見れば、腕を組んだ三田志津香がいる。

「君の今後に期待してるよ、ユウヒくん」

「……ありがとうございます」

 予定されていた三十分はあっという間だった。番組は残り二十五分。俺は先にブースを出る。そして三田さんに駆け寄った。

「志津香さん、お疲れ様です」

「お疲れ。あなた、この後は何もなかったわよね」

 おそらくこの後山上さんを囲んで打ち上げでもするつもりなんだろう。

「残念ですが、予定があります」

「予定ですって?」

 途端に不機嫌になる志津香さんの耳もとで俺は言う。

「だって俺、お二人のお邪魔虫にはなりたくないですから。――では、お先に失礼します」

  俺は足早にスタジオをでる。以外にも志津香さんは追いかけてこなかった。ということは、まんざらでもないということか。

「よかったんですか? 社長の誘い断って」

 秋山は心配そうだ。

「いいんだよ」

「――で、ユウヒさんこの後は?」

「決まってんだろ、家」

「了解」そう言って秋山は車を走らせた。