それから冷蔵庫を開けて思い出す。

「あそうだ、秋山さん。昨日作っておいたプリンがあるんですけど、おなかに余裕あります?」

「あります、あります。……あ、ちょっとすいません、ユウヒさんから電話だ」

 ポケットを探り取り出したスマホを耳に当てる。

「はい。すみません、昼飯食べてて……まだ店の中にいます」

 いいながら秋山さんはちらりと私を見た。おそらく、どこにいるのかと聞かれてとっさに嘘を吐いたのだろう。

「ええ分かりました、すぐ向かいます」

 通話を終えると秋山さんは慌てて立ち上がる。

「まひるさんすみません、ユウヒさん迎えに行かなきゃいけなくて……片づけができなくなっちゃいました」

「いいよ、そんなの。プリン持ってく?」

 保冷バッグに保冷剤を入れたら夜まで大丈夫だろう。けれど、秋山さんは恐縮したように首を振る。

「いえ。ああその、すっごくいただきたいんですが、ここにいたことがバレたらユウヒさんに叱られます……」

 彼の強張った顔をみて、ハッとする。

秋山さんにはこの家の出入りを許しているとはいえ、雄飛の留守中に男性を招切れて手料理をふるまうのはよくなかったかもしれないと反省する。

「そっか、そうだよね。じゃあ、まだ来た時にね」

「じゃあ俺、行きます。ごちそうさまでした。まじで旨かったです!」

 深々と頭を下げる秋山さん。つられて私も頭を下げる。

「こちらこそ、ありがとう。これからも雄飛ともどもよろしくお願いします」